実戦のための大原則および基本ルール

双方のバーストはプレーヤーの負け

ブラックジャックというゲームにおいては、プレーヤー側にのみさまざまな特権が与えられている。

その特権を列挙すると、

1)ヒットするかスタンドするかの判断は自分で好きなように決められる
2)ブラックジャックが完成した際の払戻金は 5割増し
3)ダブルダウンの権利
4)スプリットの権利
5)サレンダーの権利

などである。さらに厳密にいうならば、 6) 賭金の額を自分で決められる、というのもプレーヤー側にだけ与えられた重要な特権と言えよう ( なぜなら、カジノ側はどんな賭金でも受けて立たなければならない )。
また、7) ゲームをやめるタイミングの自由、これもプレーヤーにだけ与えられた立派な特権だ ( カジノ側は、プレーヤーがゲームを続行したいという限り店を閉めてしまうわけにはいかない ) 。

このようにブラックジャックのルールというものは何から何までプレーヤー側にとっていいことずくめにできている。しかしたったひとつだけプレーヤー側に不利なルールが存在している。
 それは、 「プレーヤーもバースト、ディーラーもバースト、の場合は引き分けではなくプレーヤーの負け」 ということである (写真のようなケース)。これはあまりにも意味が大きく、このルールの存在を意識しながらプレーしないことにはブラックジャックというゲームに勝つことはできない。
このルールを意識していれば、おのずと戦略は見えてくる。たとえば、ディーラのバーストが予想される局面 (たとえばアップカードが 6 の場合)、プレーヤーはわざわざ自からのバーストの危険を冒してまで強い手をねらうよりは、スタンドしてディーラーのバーストを待つ方が得策ということになる。
つまりそのようなケースではプレーヤーは 「12」 以上からヒットすべきではない。苦労して 「19」 や 「20」 や 「21」 などの強い手を作って勝とうが、「12」 でスタンドしてディーラーのバーストを期待して勝とうが、勝ちは勝ちで結果は同じだからである。だったらディーラーの手が弱い場合は、自分が先にバーストしてしまう危険を冒すだけ損ということになる。
 もちろん逆に、ディーラーがほとんどバーストしてくれそうもないような局面 (アップカードが 10、J、Q、K、Ace などの場合)、ある程度自分が先にバーストしてしまう危険を冒してでも 「17」 以上の手をめざすしかないことは言うまでもない。

このようにブラックジャックというゲームにおけるヒットするかしないかの戦略上のすべての基本は、 「ディーラーがバーストしてくれる可能性と、自分が先にバーストしてしまう可能性のバランス感覚」 に他ならないのである。とにかく 「自分もバースト、ディーラーもバースト」 というパターンで負けることだけは避けたいものである。

ディーラーに強いも弱いもない

すでに述べた通りディーラーは 「17」 以上になるまではヒットしなければならない、と同時に 「17」 以上になった段階でそれ以上はヒットできない。これはブラックジャックというゲームの大原則であり、ブラックジャックテーブルの上にもそのことが大きく書かれている。
(写真の黄色い文字。DEALER MUST DRAW TO 16, STAND ON ALL 17s と書かれている)

したがってディーラーはこの大原則に従いただ単に機械的にプレーしているだけで、ディーラーには強いも弱いもウマイもヘタもまったく存在しないことになる。

いまだに多くの者が 「強いディーラー」 などの存在を信じているようだが、それはまったくの誤りである。

また、「ディーラーにツキがなくなってくるとカジノ側は必ず調子の良いディーラーを送り込んでくるのでなかなか勝たせてもらえない」 とかいう話もよく耳にするが、それもこのルールに対する無知ぶりを露呈しているだけだ。
カジノ側がディーラーを頻繁に交代させている主たる理由は、知っている客に (家族や友人などに) 多めに払い戻したりする不正行為を未然に防ぐためである。

そう説明しても、「経験的に強いディーラーは絶対にいる」 と主張する者が後を絶たないのもまた事実である。たしかに急に勝ちだしたり急に負けだしたりすることはよくあることだ。しかしそれはディーラーの強い弱いに起因するものではなく、ただ単に 「ツキのムラ」 によるものだ。コインを投げても表と裏が交互に出ず、4回や 5回連続して表や裏が出るのとまったく同じと考えればよいだろう。

それでも多くの者が、「ブラックジャックのスランプは単なるツキのムラにしてはしょっちゅうありすぎる。とても偶然とは思えない」 と言い切る。経験上その気持ちは十分にわかる。しかしその考えは明らかに誤っている。彼らは真の意味での統計学をまったく理解していないばかりか、実際に起こっている現実の事象を客観的なおかつ冷静に分析しようとしていない。彼らは、「ムラが実際に発生する実際の確率」 と、「自分が勝手に想像しているムラの発生確率」 がどれほど大きく乖離しているかに気付いていないだけなのである。

統計学などでよく取りあげられる良い実例として、52枚のトランプをよくシャッフルしてからそれらがどの程度 「よく混ざっているか」 をテストしてみるという実験がある。これは非常に意義深い実験であると同時に極端に簡単な実験だ。
 シャッフルしたのち、ただ単にそれを手の中で広げて赤い札 (ハートとダイヤ) と黒い札 (スペードとクラブ) がどの程度バラバラに並んでいるかをチェックするだけの実験だ。トランプさえ手元にあれば誰でも簡単にできる実験なのでさっそく試してみるとよい。
結果はどうだろう。赤札と黒札の出現確率はそれぞれ 50%ずつだが、その理論通り赤札と黒札がほぼ 1枚ずつ交互に並んでシャッフルされているだろうか。実際には何度やってみても 52枚のうち必ず 5~6枚は赤や黒が連続して並んでいるはずである。  数回試してみれば 「赤の6連続」 、「黒の7連続」 など全然珍しいことではないことがわかるはずである。この 「連続」 こそがムラであり、赤札を 「ブラックジャックの勝負における勝ち」 、そして黒札を 「負け」 と仮定すれば、「6連勝」 や 「7連敗」 がまったく珍しいことではないことが理解できるはずである。

今の実験において、もし赤札や黒札の最高の連続枚数が 「3枚」 であったとしたならばそれは大変珍しい 「珍事」 であり、また最高の連続が 「2枚」 ならそれはもう 「超奇跡」 に近い信じがたい出来事である。ましてや 52枚すべて赤と黒が交互に並んでいるなどということは、この地球上のすべての人間が同時に朝から晩まで飲まず食わずでトランプを握りしめ挑戦し続けたところで絶対に起こり得ない出来事である。つまり、統計学的にはムラがまったく発生しないということの方が不自然なのである。

また凡人はよく自分の 「8連敗」 などを取り上げて、「 256分の1の確率の珍事が起こった!」(2の8乗ということで) などとよく騒いだりしているが、それは著しく数学的センスに欠けた発想だ。
その 「 256分の1」 という確率は、「ある任意の瞬間をあらかじめ指定し、そこから連続 8回負ける確率」 であって、「ゲームを楽しんでいる間のどこかで 8連敗する確率」 ではない。そのように騒いでいる者はどの時点から 8連敗しようが同様に騒ぐわけで、そういう意味においては 8連敗の確率などその何十倍も高くなる。
またそのような者は、自分と一緒にプレーしている友人が 8連敗しても同様に騒ぐだろうし、8連敗ではなく 8連勝しても 「256分の1の珍事が起こった!」 と騒ぐわけで、そのように考えると一晩プレーしていればその者が言うところの 「256分の1の珍事」 など起こらないことの方が確率的には珍事なのである。
凡人はそのような数学的な現実に気付かず、「こんな珍しいことは自然には起こらない。きっと何かがある」 と考えてしまうのである。

話は少々横道にそれてしまったが、「あのディーラーは強い」 と思いたくなるような場面に直面したら、それは必ず 「ツキのムラ」 だ。それは 「ディーラーには戦略上の選択の余地が与えられていない」 というブラックジャックのルールからもハッキリ言えることであると同時に、数学的にもなんら不思議なことではない。

16 は 12 よりも弱い?!

すでに説明してきた通り、ただ単に機械的にプレーしているディーラーの手には、「17」、「18」、「19」、「20」、「21」 または 「22 以上」 のいずれかしかあり得ないことになる。

このことから、プレーヤーにとっては 「12」 も 「16」 も同じ強さの手である ということに気付かなければならない。なぜならディーラーの最終的な手に 「14」 とか 「15」 とかいう手が存在しない限り、プレーヤーは 「12」 にしろ 「16」 にしろディーラーがバースト (22 以上) してくれない限り絶対に勝てないからである。

したがってくどいようだが、プレーヤーにとって、"「12」 なら負けていたが 「16」 なら勝っていた" などということは絶対にあり得ないわけで、「12」 からヒットして 4 が来て 「16」 になった際に、"少しは手が強くなった!" などと喜んでいるようでは絶対にブラックジャックというゲームに勝てない。
むしろその場合は 「手は悪くなった」 と考えるのが妥当だろう。なぜなら、「12」 も 「16」 もどっちにしろディーラーがバーストしてくれない限り勝てないという意味においては同じ強さの手だが、さらにヒットして 「17」 以上の手に持っていく場合のことを考えると 「16」 の方がバーストしやすくなった分だけ 「12」 よりもはるかに条件は悪くなっていると考えるべきだからである。

見えていないカードはすべて 10 と思え

ディーラーの見えていない方のカードにしろ、自分が次に引くカードにしろ、見えていないカードを予測する際はそのカードを 10 と予測すべきだ。(もちろんこの 10 には J、Q、K も含まれている)。

これは言うまでもなく 10 である確率が一番高いからである。もちろん 10 と判断しても結果は 10 でない場合もある (むしろ 10 でない場合の方が多い)。

しかし推理しないことには戦略を立てようがないわけで、10 である確率が一番高い限りはそのように推理するしかない。またそのように推理しながらプレーすることが結果としては最大の利益 (勝率) を生むことになる。なぜなら次のカードを 3 とか 7 など、10 以外の数字を予測しながらプレーしても予想がまるで的中しないからである。

11 以下は絶対にヒット

絵札 (J、Q、K) はすべて 「10」 としてカウントするので 10 よりも大きな数字のカードは存在しない。
つまり 「11」 以下の状態からヒットしてバーストすることは絶対にあり得ないことになる。したがって、いかなる場合においても 「11」 以下の状態でのスタンドはあり得ない。

「ソフト16」 以下は絶対にヒット
(実際には 17も絶対にヒット)

「ソフト 16」 とは Ace を 「11」 と数えた場合の 「16」 のことだ。つまり Ace と 5 を持っている場合のことで、「16」 にも 「6」 にもなる手のことをいう (写真右)。同様に 「ソフト 14」 と言えば Ace と 3 ということになる。

このように Ace を含んだ 「16」 以下の手の場合は、次にどんな数字が来てもバーストすることはないので絶対にヒットである (もちろんここで言う 「ヒット」 とは、ダブルダウンも含む)。

ヒットして小さい数字が来れば (たとえば 2、3、4 など) 強い手になる。また仮に大きな数字が来てしまい 「ソフト 16」 が 「15」 とか 「14」 になってしまったところで、どっちにしろディーラーがバーストしない限りは勝てない手だったわけで、ヒットして上位の手をねらった分だけトクということになる。
じつは計算上、「ソフト 17」 もいかなる場合においてもヒットした方がトクだということを覚えておこう。「ソフト 17」 からヒットして 9 が来た場合、せっかく完成していた 「17」 という手が 「16」 になってしまうので少々ためらう部分もあるが、トータル的な確率論では明らかにヒットした方が有利なので、この際は 「ソフト 17 以下はすべてヒット」 と覚えておくとよいだろう。

なお 「ソフト 19」 や 「ソフト 20」 も次に何が来てもバーストしない手ではあるが、そのままの状態で十分に強い手なのであえてヒットして手を落とすようなことはしない。
「ソフト18」 の場合は、ディーラーの手の強弱を考えてヒット、スタンド、ダブルダウンなどの戦法を選択することになる。