カジノによるルールのちがい

ディーラー側の 「ソフト17」 のルール

ここまでに述べてきたことになんら変更はないが、細かい点でのハウスルール (そのカジノ独自のルール) というものがいくつか存在するのでそれを説明しておこう。これらのルールは知っておかなくても特にプレーに支障はないが、興味の対象としてとりあえず知っておいて損はないだろう。また、0.1% の期待値の差も気にするような本格的なギャンブラーにとっては必須の知識だ。

すでに何度も 「ディーラーは 17 以上になったらヒットすることができない」 と述べてきたが、カジノによっては 「ソフト 17 (Ace を 11 とした場合の 17) の場合に限り 17 でもヒットする」 というルールを採用している。

 つまりこの部分に関して言えば、「ソフト 17 も含めたすべての 17 以上の手においてディーラーは STAND する」 というカジノと、「 17 以上は基本的には STAND だが、ソフト 17 の場合に限り例外的にヒットする」 という 2つのルールが存在することになる。そのカジノがどちらのルールを採用しているかはそのブラックジャックテーブルの上にハッキリと明記されているのですぐにわかる (写真の黄色の文字で書かれている部分がそれ)。

「Dealer must hit to 16, and stand on all 17's」 と書かれていれば、ソフト 17 でもディーラーは STAND しなければならず、 「Dealer must hit on soft 17」 となっていれば ソフト 17 の時だけは例外的に 17 でもヒットするという意味だ。( 「Hit」 という言葉の代わりに 「Draw」 という言葉を使っている場合もある)

ちなみにラスベガスの場合、ストリップ地区のカジノでは 「ソフト 17 でもヒットしない」 が主流になっており、逆にダウンタウン地区のカジノでは 「ソフト 17 はヒットする」 というルールを採用している場合が多い。(それでも 2002年を境に、ストリップ地区のカジノでもヒットするところが増えてきている)

一番気になる 「どちらのルールの方がプレーヤーにとって有利なのか」 という疑問についてだが、ほとんど大差はないものの厳密に計算すると前者のルール、つまり 「ソフト 17 でもヒットしない」 方がプレーヤー側にとってはやや有利だ。つまりこのルールに関していえばストリップ地区でプレーした方がトクということになる。一見 「ソフト 17 はヒット」 のルールの方がディーラーのバーストの可能性が出てくる分だけプレーヤー側に有利なようにも思えるが、実際は逆ということになる。

DECK数のちがい

「DECK」 とは 「トランプ1組」 のことだ。つまり 「1 DECK」 はトランプ 52枚ということになる (写真の左側の束が 1 DECK、右側の束が 2 DECK)。

したがって、「現在このブラックジャックは 2 DECK で行われている」 といえば、104枚のカードが使用されているという意味になり、同様に 「6 DECK」といえば 312 枚のカードが使われているということになる。

ブラックジャックにおけるこの DECK数は各テーブルによってまちまちで、1 DECKもあれば 6 DECKもある。もちろんこの DECK数のちがいによってこれまでに述べてきたようなルールが根本的に変わってきてしまうようなことはないが、微妙なフィーリングの違いは生じてくる。

たとえば、1 DECKや 2 DECKの場合は 「何のカードが山の中にあと何枚ぐらい残っているか」 ということが読みやすくなるため、記憶力のよい者は 6 DECKのテーブルでやるより多少勝てる可能性が高くなる。
それでも 1 DECKといえども最後の最後の 1枚がなくなるまでゲームが続けられるわけではなく、公平さを保つために通常残りの枚数が 3分の1 ぐらいになった時点で (つまり 1 DECKの場合であれば残りが 15~20枚になった時点で) シャッフルになるので、1 DECKでやったからといってすべてのカードのゆくえが把握できてしまうわけではない。
むしろ 1 DECKや 2 DECKのテーブルでは頻繁にシャッフルが行われるため、ゲームの中断が多くてイヤだという者も少なくない。
また 1 DECKの場合は、「ダブルダウンは 11 または 10 の場合にしか認めない」 など、6 DECKなどの場合に比べルールに多少制限が加えられている場合が多い。特に最近の 1 DECKテーブルは、「ブラックジャックが完成しても払戻倍率は 1.5倍ではなくて 1.2倍」 というとんでもないルールが採用されていることがあるので注意が必要だ。

その他のちがいとしては、1 DECKや 2 DECKの場合はディーラーがすべてのカードを手に持つことができるが、4 DECKや 6 DECKの場合は物理的に持ちきれないのでシュー (SHOE) と呼ばれるケースを使う (写真: カードが 「シュー」 から配られる場面)。

また、少ない DECK数の場合は 「すでに何のカードが何枚出てしまったか」 ということがある程度推理しやすくなるため、あとの順番のプレーヤー (ディーラーに向かって左側の座席のプレーヤー) の方が多少有利になってしまう。そのためそのような不公平を少しでも減らすために、プレーヤーに配られる 2枚のカードは伏せられた状態のままで配られる。(それでも各プレーヤーがヒットしたときのカードは表向きに配られるため、やはり記憶力の良い者にとってはあとの順番の方が有利ということになる)。

一方、6 DECKなどの場合はそのような心配はほとんどないので ( 312枚のうちの十数枚のカードのゆくえを覚えたところであまり有利にならないので)、プレーヤーに配られるカードは始めからすべてオープンの状態 (アップカード) で配られる。

このように DECK数が異なるといくつか微妙なちがいが生じてくるが、よほどの熟練者でない限りどの DECK数でプレーしても結果に大差はないと考えてよいだろう。大きなカジノでは、1 DECK、2 DECK、4 DECK、6 DECK などさまざまなタイプのテーブルがオープンしているので自分に最も合ったテーブルでプレーすればよい。もっとも、一般のプレーヤーにとっては DECK数のちがいよりも、ミニマムベット (最低賭金) の違いによりテーブルを決めなければならない場合がほとんどだろう。

ダブルダウンの制限

すでに説明した通りプレーヤーに与えられている 「ダブルダウン」 の権利は、初めに配られた 2枚のカードがいかなる数字の場合においても行使できた。
しかしそれはあくまでも原則論であって、カジノによっては 「11」 または 「10」 の場合のみにできる、と制限を加えている場合もある。

「7」 や 「8」 でダブルダウンする者はまずいないので、この制限がプレーヤーにとって特に不利になるようなことはないようにも思われるが、ディーラーの手が弱い時の 「 SOFT 15 」 (Ace と4) や 「 SOFT 16 」 (Ace と5) などからのダブルダウンも制限されてしまうため、このような 「制限付きダブルダウンルール」 は明らかにプレーヤー側にとって不利だ。

ちなみにこのようなルールを採用しているのはマイナーなホテルに多い。

また、スプリット後のダブルダウンを認めていないカジノもある。たとえば 8 と 8 のペアをスプリットした後、最初の 8 に対して配られたカードが 3 の場合は 「11」 となり、ディーラーの手が弱い場合はダブルダウンした方が有利だが、このようなケースのダブルを認めていないカジノも少なくない。特に DECK 数が少ない場合、この傾向が強い。
同様に、スプリットしたあとにさらに同じ数字が来た場合のトリプルスプリットを認めていないカジノもある。

BJ確認のタイミング

ディーラーのアップカードが 10、J、Q、K の場合、もし伏せられているもう一方のカードが Ace であればディーラーにブラックジャックが完成していることになる。

 このブラックジャックは、何枚か引いたあとの 「21」 に対しても勝つということはすでに述べた通りだが、もしディーラーにブラックジャックが完成していた場合、プレーヤーにヒットやスタンドの意思表示を確認したり実際にヒットさせたりすること自体が時間の無駄になる。

そのような時間の無駄を省くためにディーラーはアップカードが 10、J、Q、K の場合、プレーを続行する前にもう 1 枚の伏せられたカードが Ace であるかどうかを覗いて確認する (もちろんプレーヤーたちには見られないようにしながら)。そして Ace だった場合はブラックジャックが完成していることになるのでその時点でカードを披露しディーラーの勝ちが確定し、ゲーム終了となる (もちろんその時点でプレーヤー側の誰かにブラックジャックが完成していれば、その者だけは引き分けとなる)。もちろん Ace でない場合は通常通りゲームは続行される。

ところがカジノによってはこの覗いてみる確認作業を行わないところもある。つまりそのようなカジノにおいては、各プレーヤーが一生懸命にヒットやスタンドをしたあとになって初めて、「ディーラーには初めからブラックジャックが出来ていた」 ということが判明することになる。
これはただ単に時間の無駄というだけで前者のルールとの間に大差はないようにも思われるが (たしかに大差はない)、本格派のプレーヤーにとっては戦略上微妙なちがいが生じてくる。
なぜなら通常の 「事前にのぞいて確認する」 タイプの場合、プレーヤーは 「ディーラーには絶対にブラックジャックが出来ていない」 という前提でディーラーの手を推理しながら戦略を立てることができるが、「のぞいて確認しない」 タイプの場合、「ひょっとしたらブラックジャックが出来ているかもしれない」 という前提でプレーしなければならないからである。この違いは、山に残っているカードを推理する際にも影響してくる。
ただ、これは一般の大多数のプレーヤーにとってはなんら関係のないレベルのもので、よほどの本格派ギャンブラー以外はまったく気にする必要はない。ここではあくまでも 「カジノによるちがいの存在」 として紹介したまでである。

余談になるが、ディーラーの手にブラックジャックが完成しているかどうかをチェックするための 「こっそり覗いて見る確認作業」 、つまりアップカードが 10、J、Q、K の際に伏せられているカードが Ace かどうかの確認、およびアップカードが Ace の場合に伏せられたカードが 10、J、Q、K かどうかの確認、これらの作業はディーラーにとっては腰や首を曲げながらこっそり見なければならない作業のためけっこう肉体的な負担となっていた。
そこで最近はテーブルの中央に埋め込まれた小さなミラーなどにカードを反射させて伏せられたカードの数字を確認するような方法が採られるようになってきた。またミラーの代わりに磁気やハイテクセンサーで読みとることができるようにしたテーブルも登場してきている。このような改善は我々プレーヤーにとってはどうでもよいことではあるが、とりあえずディーラーたちには歓迎されているようである。
しかし、カジノ側がこのシステムを導入し始めた本当の理由は、ディーラーの労働条件の改善のためではない。ディーラーの不正防止にあると言われている。
なぜなら、のぞき込んで確認したカードが Ace や 10、J、Q、K でなかった場合はそのままゲーム続行ということになるわけだが、その伏せてあるカードが何であったかをプレーヤーに身振り手振りで (いわゆるサインで) 教えてあげることもできてしまい、家族や友人が客としてプレーしに来ている場合そのような不正行為が起こらないとは限らないからだ。

カジノ側の意図が本当にその点にあるという証拠はちゃんとある。カジノ側はこのミラーシステムの導入により、この 「伏せてあるカードを確認する」 という作業の内容を、従来からの 「そのカードの数字が何であるかを確認する作業」 から、「 Ace および 10、J、Q、K のカードであるかないかだけを確認する作業」 に変えてしまったのである。

つまり、ディーラーがミラーで反射させて確認しているのは 「カードの数字」 ではなく、 Ace および 10、J、Q、K のカードにのみ印刷されている 「小さなマークの有無」(10、J、Q、K の各マークやホテルのロゴなど) なのである。
 右の写真を見ればわかる通り、10、J、Q、K のカードの端にはごく小さなマークが印刷されていることがわかる。 Ace の場合は反対側のコーナーの余白部に A の文字が出っ張るように印刷されている ( Ace かどうか確認する場合は反対側のコーナー部をミラーにあてがう)。ミラーと言っても大きさは指のツメほどしかなく、カードのコーナー部分をほんの少しだけそのミラーにあてがってそのマークの有無だけを確認する。つまりカード全体が見えるわけではなく、結果として 「絵札かどうか」 は確認できても、そのカードが 7 か 3 かまでは確認できない。これによってカジノ側が心配するディーラーの不正行為は完全に防げるというわけだ。
なお、磁気などで確認する方式が採用されているカードではこのような印刷にはなっていない。見かけはごく普通のカードと同じになっている。