戦術のオプション

ダブルダウン

これはプレーヤーに与えられた特権で (つまりディーラーはこの戦法を使えない)、プレーヤーは最初に配られた 2枚のカードを見た段階において (もちろんディーラーのアップカードが何であるかを確認したあとで)、「次に何が来ようが、あと1枚しか引かないので今この段階で賭金を倍にさせてくれ」 と宣言する権利だ。

したがって、これを宣言したあとは、必ず 1枚引かなければならないし、なおかつその 1枚がどんなに小さな数であろうともそれ以上追加して引くことはできない。

このダブルダウン戦法は、勝てば儲けが初期の予定の倍になるが、負けも倍になるので絶好のチャンスであると同時に危険も伴なう。
したがって、この権利を行使する際にはある一定の常識を知っておく必要がある。その常識とは、自分の手の合計が 「11」、「10」 もしくは 「9」 など、次に 10 が来ると ( 10 が来る確率が一番高いため。もちろんここでいう 10 とは J、Q、K を含む) かなり強い手になるような場合で、なおかつディーラーのアップカードが 7、8、9、10、J、Q、K、A などの強いカードではない場合に行うということだ (アップカードにこれらの強いカードが見えている場合、もう 1枚の見えてない方のカードが 10 だとディーラーは手がすでに完成してしまっていることになりバーストしてくれない)。

なお、自分の手の合計が 「11」 や 「10」 や 「9」 ではなくても、例外的に自分の手に Ace が含まれているような場合は (たとえば A と 5 とか)、次にどんな数字が来ても自分は絶対にバーストしないばかりか、小さな数字が来ればかなり強い手になるため ( Ace を 11 と数えることができるため)、この Double Down で勝負に出るのもひとつの作戦である。

ただし、その場合においてもディーラーの手が強くない (アップカードが 7、8、9、10、J、Q、K、A などではない) ことが条件だ。

ちなみにこの Double Down の権利を行使する際は、言葉でそれを宣言するのではなく、ただ黙って賭金を元の賭金の横に追加して差し出せばよい (上の写真: ダブルダウンをしたあとに絵札が配られた場面)。それが自動的に Double Down の意思表示となる。

また言うまでもなく Double Down の意思表示をしたあとは、通常の指で行うヒットやスタンドの意思表示をする必要はなくなる。なぜなら Double Down は 「1枚だけヒット」 に決まっているからである。

スプリット

これも Double Down と同様にプレーヤーにだけ与えられた特権だ。最初に配られた 2枚のカードを分割してそれぞれの 1枚のカードに対して、新たにカードをもらい、独立した 2つのゲームとしてプレーを続行する権利である。

Double Down と大きくちがうところは、この SPLIT は初めに配られた 2枚のカードが同じ数のカード (つまり 「ペア」) である時にのみ権利を行使できるということである。

それと SPLIT にはヒットの回数に制限がないため、 SPLIT 後は何枚でも好きなだけカードを引くことができる。(例外的に Ace のペアのスプリットだけは 1枚ずつしかカードをもらえない)

たとえば最初に配られた 2枚が 8 と 8 の場合、この手を 「16」 の手として普通にプレーする代わりに、2枚を分割してふたつの独立した 「8」 の手として、それぞれの 8 に対して新たにカードをもらいプレーを再開するのがこの SPLIT である (写真)。

このように SPLIT の権利を行使した場合、元の賭金と同じ額の賭金を分割された手にも追加して賭けることになるため、この SPLIT も結果的には倍の賭金を出してプレーしていることになる。
しかし Double Down のように倍の賭金を同時に失うとは限らず (分割した 2つの手のうちのどちらか一方の手が勝ってどちらか一方が負けるということもあるため)、厳密に言うならば、賭金を 2倍にするのではなく2回分のゲームを同時に並行して行うということ になる。
では戦略的にはどのような場合にスプリットした方がよいのか。基本は、最初に配られた2枚のままでは勝てそうもない場合、もしくはディーラーの見えているカードが弱い場合 (ディーラーがバーストしそうな場合) である。
 つまり 10 と 10 をスプリットするようなことはしないし (なぜなら 「20」 なのでそのままでも十分勝ち目がある)、ディーラーのアップカードが 10 や 9 の時に、6 と 6 などをスプリットしない ( 6という弱いカードではどっちにしろ勝てそうもないので、わざわざスプリットして失う金を倍にする必要はない)。
 ちなみに、この SPLIT の意思表示も新たな賭金をテーブル上に黙って出すだけで OK だ。ただし最初に配られた 2枚のカードが 5 と 5、もしくは 4 と 4 の場合は Double Down にしたいのか SPLIT にしたいのかまぎらわしいためディーラーがプレーヤーに口頭で確認を求める場合もある。
( 5 と 5 、4 と 4 以外のペアの場合は暗黙のうちに SPLIT だということがわかってもらえる。なぜなら、自分が先にバーストしてしまう可能性のある 6 と 6 以上のペアから Double Down する者はいないし、また逆にたとえ次に 10 が来ても 「16」 にしかならないような 3 と 3 から Double Down する者もいないからだ)

サレンダー

これもプレーヤーにだけ与えられた特権だが、この 「サレンダー」 を知っている者は意外と少ない。ましてや実戦でこの権利を行使している者はもっと少ない。

その理由はこのルールを採用しているカジノが少ないからであろう。

最近は少しずつ増えてきてはいるものの、まだこのルールを採用しているホテルはストリップ地区の高級ホテルに限られている。

しかしこのルールも知っておいて損はないのでぜひここで覚えておこう。
「SURRENDER」 とは、直訳すれば 「降参、降伏」 だ。ここで言うサレンダーもまさに文字通り 「ゲームの降参」 と解釈すればよい。つまり最初に配られた 2枚のカードを見て 「この手ではとても勝てそうもない」 と判断した場合、このサレンダーを宣言する。
この宣言はこれまでのダブルダウンやスプリットと違って口頭で意思表示を行う。つまりヒットやスタンドをする前にディーラーに 「サレンダー」 と口頭で告げる (右の写真は、サレンダーすべき典型的な局面)。

このサレンダーの意味は、「無条件で賭金の半分を差し上げますので、この時点で降参させてください。だから賭金の半分は返してください」 というオプションである。つまりサレンダーを宣言した場合は、ヒットもスタンドもせずにその時点でゲームから退くことになる。ディーラーはその場で賭金の半分を取り残りの半分を返してくれる。(他のプレーヤーはもちろん通常通りゲームを続ける)。

この作戦を実戦で使う場合の目安としては、自分の手が非常に弱い場合で、なおかつディーラーのアップカードが非常に強い場合だ。
 具体的には自分の手が 「16」 や 「15」 でディーラーのアップカードが 10 (もちろん J、Q、K も含む) もしくは Ace の場合ということになる。自分の手が 「12」 や 「13」 の場合は次にヒットしてもバーストする可能性が 「16」 や 「15」 の場合に比べかなり低いため確率論的にはサレンダーするべきではない。

インシュランス

これはそのものずばり 「保険」 である。何に対する保険かというと、ディーラーにブラックジャックが出来てしまった場合の自分の賭金を保護するための保険である (ディーラーのアップカードが Ace の場合にこの保険を掛けることができる)。

通常この保険は自分がすでにそのゲームに対して賭けている賭金の半額を保険料として掛ける (写真。2枚のもともとの賭金に対して 1枚を保険として差し出した局面)。

もしディーラーにブラックジャックが完成していた場合 (つまり見えていない方のカードが 10、J、Q、K の場合)、この保険料 (賭金の半額) の倍、つまりゲームに賭けている賭金と同じ額が保険金として支払われる (保険料そのものも戻ってくる)。もちろんゲームそのものの勝負は負けとなるのでゲームに賭けていた賭金は取られる。

結果として、差し引きゼロでまったくお金は動かないことになり、当初のゲームに対する賭金を保護できたことになる。もしディーラーにブラックジャックが完成していなかった場合はその保険料は取られて (つまり 「掛け捨て」 となる) ゲーム続行となる。

さて戦略としての解説だが、ディーラーのアップカードが Ace だった場合、ディーラーにブラックジャックが完成してしまっている可能性は十分にあるので (もう 1枚のカードが 10、J、Q、K ならブラックジャック完成)、この保険を掛けることもひとつの作戦だろう。しかし確率論的なことを言うならば、この保険は賭けない方がトクということになる。
 なぜならこのインシュランスの 「賭金の 2倍保証」 という配当条件は 「 12枚中の 4枚の出来事」 に対する保険としては妥当だが、実際は 「 13枚中の 4枚の出来事」 に対する保険であってややプレーヤー側にとって不利だからだ。
 しかしそれはあくまでも長い目で見た場合の理論であって、短期的には 「保険を掛けておけばよかった!」 などということはしばしばある。したがって、あまり確率論的なことばかり言っていてもゲームが楽しくないので、その時の 「気分」 や 「予感」 で判断すればよいだろう。それでも 「インシュランスは確率論的には絶対に損である」 ということだけは常に頭に入れておきたい。(後述するカードカウンティングを行っている特殊な条件下では例外もあるが)

なお実際の現場における手順だが、ディーラーのアップカードが Ace の場合、ディーラーはしばらく (といっても数秒間だが) 手を休め各プレーヤーに保険金を掛けるかどうかの 「検討時間」 を与えてくれる。プレーヤーはその間に判断し保険を掛けたければ保険料 (一般的には元の賭金の半額) を差し出せばよいし、掛けたくなければ黙ってそのまま何もしないでゲームの再開を待てばよい。ディーラーはしばらくしてから自分のもう 1枚の見えていない方のカードが 10、J、Q、K でないかをのぞき込むように (プレーヤーたちには見えないように) 確認する。もしそれが 10、J、Q、K でブラックジャックが完成していた場合、その 2枚ともを全員の前に披露し自分の勝ちを宣言し、インシュランスを掛けていなかったプレーヤーの賭金を回収してゲーム終了となる。もし 10、J、Q、K でなかった場合はそのカードはそのまま伏せた状態のままにして保険の掛金だけを回収し通常通りの手順でゲームを再開する。

イーブンマネー

これも基本的には前述のインシュランスとなんら違いはない。あえて正確な表現をするならば 「自分にブラックジャックが完成している場合で、なおかつディーラーのアップカードが Ace の場合に掛けるインシュランス」 ということになる。結果として必ず元の賭金と同じ額だけの勝ちとなるため 「イーブンマネー」 と呼んでいる (写真のような局面で宣言する)。

このイーブンマネーの場合は元の賭金の半額をわざわざテーブルに出す必要はなく、ただ単に 「イーブンマネー」 と声を出して宣言するだけでよい。宣言するとすぐその場でディーラーは元の賭金と同じ額だけ支払ってくれる。なぜならディーラーにブラックジャックが完成していようがいまいが結果は必ず同じになるからだ。なぜ必ず同じ結果になるのか?

もしディーラーにブラックジャックが完成していた場合、インシュランスとして掛けた保険料 (元の賭金の半額) の倍の金額 (つまり元の賭金と同じ額) が支払われ、もともとの勝負の方はお互いブラックジャックなので引き分け。結果として保険金だけを受け取ることになる。
逆にもしディーラーにブラックジャックができていなかった場合、当然保険料 (元の賭金の半額) は没収されるが、一方ゲームそのものの勝負はプレーヤー側の勝ちとなり (すでに自分にブラックジャックが完成しているため) 賭金の 1.5倍の勝ち金を受けることになる。つまり結果として差し引き 「賭金と同じ額だけの儲け」 ということになる。

 以上のようにイーブンマネー保険を掛けた場合はディーラーの見えていない方のカードに関係なく自動的に 「賭金の1倍の勝ち」 が確定することになる。

ではこのイーブンマネー保険はプレーヤーにとって損か得かということになるが、これは前述のインシュランスとまったく同じことなので確率論的には損である。しかし、あまり確率論的なカタイことばかり言っていてもゲームが楽しくないので、このイーブンマネーに関してもその時の気分で決めればよいだろう。
たとえば、「せっかく自分にブラックジャックが完成しているのに引き分けで何ももらえないというのはイヤだ」 と思えばイーブンマネー保険を掛けて 「1倍の勝ち」 を確定させるのもよいし、また逆に 「せっかく自分にブラックジャックが出来ているのだから 1.5倍もらわないと気がすまない。もしディーラーにもブラックジャックが出来ていて引き分けになってしまってもそれはそれで仕方がない」 と考えるのであればイーブンマネー保険を掛けなくてもよいだろう。
それでも 「インシュランス」 同様、確率論的にはイーブンマネーの選択は損であるということだけは頭に入れておいてもらいたい。