戦術&マナー

知っておきたいクラップスの原理

以上のようにさまざまな賭け方が存在するが、クラップスというゲームにおいて最も基本となる賭け方はパスラインである (もちろんカムも同じこと)。

このパスラインの内容を完全に理解できないことには本当の意味でのクラップスを楽しむことはできない。

そしてこのパスラインを徹底的に理解する際に必要不可欠となるのがドントパスとの対比論だ。

つまりドントパスとのちがいをよく理解できてこそ、パスラインの利点や欠点および目指すべき目標が見えてくるのである。以下がその対比論に基づくパスラインの分析だ。

パスラインもドントパスもカムアウトロールで勝負がつかなかった場合はその後のロールに勝負が持ち越されるわけだが、その状況における (つまり第 2投目以降における) パスラインとドントパスの目標のちがいは、ただ単に 「7」 が先に出るか 「ポイント」 が先に出るかの違いだけである。そう考えるとカムアウトロールで勝負がつかなかった場合は、断然ドントパスに賭けたプレーヤーの方が有利ということになる。なぜなら、いかなる目よりも 「7」 の出現率が一番高いからである。

ではパスラインよりもドントパスに賭けた方が圧倒的に有利なのか。答は 「ノー」 だ。なぜなら、ドントパスへの賭けはカムアウトロール時に負けてしまう危険性が非常に高いからである。理由はもちろんカムアウトロール時に負けとなってしまう 「7」 の出現率が非常に高いからだ。

このように考えると、ドントパスへ賭けた者の戦略目標は、 「とにかくカムアウトロールを無事に通過してしまうこと」 であり (もちろんカムアウトロールで勝てればそれにこしたことはないが、そこで勝てる可能性は低い)、逆にパスラインに賭けた者は、 「とにかくカムアウトロールで勝負を決めてしまうこと」 が最大の目標ということになる。

さらに知っておきたいことは、もしカムアウトロールで勝負がつかなかった場合、そこで決まる 「ポイント」 が何になるかがその後の両陣営の勝敗に大きく影響してくるということである。
つまりパスライン陣営にとっては、「ポイント」 が第 2投目以降に比較的出やすい 「6」 や 「8」 になることが望ましく、「7」 に比べ圧倒的に出にくい 「4」 や 「10」 が 「ポイント」 になってしまった場合は極めて不利な絶体絶命の状況に追い込まれることになる。
また逆にドントパス陣営にとっては、「7」 よりも圧倒的に出にくい 「4」 や 「10」 が 「ポイント」 になってくれれば勝利はより確実なものとなる。

各出目の出現率は以下の通りだが、この表を見ればいろいろなことが読み取れる。たとえばカムアウトロールを通過してしまったあとの各 「ポイント」 によるパスライン陣営の不利の度合いがよくわかる (つまり 7 が先に出てしまいやすい)。またドントパス陣営のカムアウトロール時のリスクがいかに大きいか ( 7 が出やすい) も読み取ることができる。

有利な賭け方

冒頭でも述べたようにクラップスではルーレットと違い、数学的な 「期待値」 がまったく異なる賭け方がいくつもある。

これを他の言葉で置き換えるならば、「損をする賭け方」 と 「比較的有利な賭け方」 が存在しているということになる。

ズバリ結論から先に言ってしまえば、パスライン、カム、ドントパス、ドントカム、それにプレースベットの 「6」 か 「8」、以上の賭け方以外は絶対にやるべきではない。

ビギナーは、とかく単純でわかりやすいハードウエーやフィールドなどに賭けたがるが、それらはたまにラッキーで勝てることはあっても長い目で見れば必ず負ける賭け方だ。なぜなら、それらの賭け方はその目の出現率に比べ、配当倍率が不当に低く抑えられているからである。

一方、そのような 「損をする賭け方」 がたくさん存在している分だけ、パスラインやドントパスなどに対する客にとっての期待値は非常に高くなっている。事実これらパスライン、カム、ドントパス、ドントカム、それにプレースベットの 「6」 か 「8」、の期待値は限りなく客とカジノ側の勝率が 「 50:50 」 に近い状態になっており、これらに賭けている限りクラップスはルーレットなどに比べはるかに客側にも勝算があるゲームと言うことができる。

ちなみに各賭け方に対するハウスアドバンテージ (控除率: カジノ側が有利な度合い) は、以下の通りだ。これらの数字の見方は、その賭けに $100 投じられた場合の数学的期待値に基づくカジノ側の平均収益金と考えればよい。つまりパスラインに $100 投じられるとカジノ側は平均 $1.41儲かるということになる。

【 補足 】
オッズ賭けは、パスラインやカムなどと抱き合わせで行う賭けだが、この数字 (0.00%) はあくまでもオッズ賭け単独で計算した場合のもの。

ちなみにルーレットの場合この控除率が一律 5.26% であることを考えると (ルーレットの場合はどの賭けパターンもすべて同じ 5.26% になっている)、クラップスというゲームの特異性がよく見えてくることだろう。

つまりこのゲームにはパスラインやカムそれにオッズ賭けのような 「出血大サービス」 的な賭け方が存在していると同時に、もはや 「ワナ」 とも言える法外な高控除率の賭け方も多数存在している。

この 「出血大サービスとワナの共存」 が意味しているものは何か? それはまさしく、「この実態を知らない者から資金を吸い上げ、そのぶん知っている者にサービスしている」 ということに他ならない。つまり、「ハードウエーやプレースベットの 4や 10 に賭けている者から資金を調達し、パスラインやカムおよびそのオッズ賭けに賭けている者にサービスしている」 ということである。
 (数値的にはイレブンやエニーセブンの方が大きなワナではあるが、実際にそれらに賭けている者は、そう多くない。そういう意味においてカジノ側にとっての最大のドル箱は、やはりハードウエーやプレースベットの4や 10ということになる)。

以上をまとめると、「クラップスというゲームは、結果そのものは人知の及ばないサイコロが決定しているためブラックジャックのような高度な判断力やテクニックを必要とするわけではないが、ワナにハマらないための知識だけは絶対に必要で、そういう意味においてはワナがまったく存在しないルーレットとはかなり趣を異にしている。そしてワナさえ避けて通ればクラップスは最大の勝率が期待できるカジノゲームである」 ということができる。

断然有利なオッズ賭け

こんな大切なことは冒頭で説明すべきだったかもしれないが、ルールを理解していく上での順序もあるので、やむを得ずこんな場所で紹介することとした。

じつはこの 「オッズ賭け」(ODDS) こそがクラップスというゲームの最大の醍醐味であり、また最も有利な賭け方でもある。

世界中にいろいろなギャンブルが存在しているが、競馬、競輪、宝くじなども含めたすべての賭けごとの中で、唯一このクラップスの 「オッズ賭け」 だけが胴元側 (カジノ側) の取り分がゼロの賭けとなっている

(ただし、設定条件が特殊な状態のビデオポーカーや、カードカウンティングをやった場合のブラックジャックを除く)。言い換えれば、世界で唯一 「胴元側と客側の勝率が完全に 50:50 になっているゲーム」 ということが言える。
したがって、このオッズ賭けにはカジノ側にとっての数学的アドバンテージがまったく存在しないため、各カジノではその賭金の上限を決めている。(ここでいう上限とは通常の 「 MAXIMUM BET 」 の意味とは少々異なる。説明はこのあとに)

オッズ賭けの具体例

オッズ賭けとは、パスラインやカムに賭けてカムアウトロールが振られたあとに、その賭金の額を増やす賭け方で 「追加して賭ける賭金」 のことである。

たとえばパスラインに $5 賭けたとする。そしてカムアウトロールで 「ポイント」 が 「4」 と決まったとする。通常このままにしておけば、第 2投目以降で 「4」 が先に出れば勝ち、「7」 が先に出れば負けで、その勝った際の配当倍率は 1対1 つまり今の例では勝ち金として $5 受け取ることになる。

ところがカムアウトロール後に 「オッズ賭け」 という権利を行使し (写真)、最初の賭金 $5 を $30 に増やすと (つまり新たに $25 を 「オッズ賭け」 として追加して賭けると)、追加して賭けた分の $25 に対しては 1対1 の配当倍率ではなく、その 「ポイント」 と 「7の目」 の出現比率に正確に応じた配当倍率で払い戻される。
たとえば 「4」 の出現率は 「7」 の出現率の正確に半分のため、「ポイント」 が 「4」 の状態で追加して賭けられたオッズ賭けに対する配当倍率は 2倍ということになる。
したがって、今の例で言うならば、もし 「7」 よりも先に 「4」 が出て勝った場合、最初の賭金である $5 に対しては通常ルールが適用され 1倍の $5 が払い戻され、オッズ賭けといわれる追加分の $25 に対しては 2倍の $50 が支払われるということになる。
参考までに 「ポイント」 が 「5」 と 「9」 のときのオッズ賭けに対する配当倍率は 1.5倍、「6」 と 「8」 のときのそれは 1.2倍となっている。もちろんこれらの配当倍率は 「7」 の目とその目の出現率の差にきれいに比例していることは言うまでもない。
ちなみにこれらオッズ賭けの配当倍率とそれぞれの目の 「プレースベット」 の配当倍率とを比較してみると、いかにオッズ賭けが有利になっているかがよくわかるはずである。

[ 各目の出現率 ]

4の目 3/36
5の目 4/36
6の目 5/36
7の目 6/36
8の目 5/36
9の目 4/36
10の目 3/36

[ 各目に対する7の目の出現比 ]

4の目 2.0倍
5の目 1.5倍
6の目 1.2倍
8の目 1.2倍
9の目 1.5倍
10の目 2.0倍

[ 実際の配当倍率 ]

プレースベットの 4 1.80倍
プレースベットの 5 1.40倍
プレースベットの 6 1.16倍
プレースベットの 8 1.16倍
プレースベットの 9 1.40倍
プレースベットの10  1.80倍
オッズ賭けの 4 2.00倍
オッズ賭けの 5 1.50倍
オッズ賭けの 6 1.20倍
オッズ賭けの 8 1.20倍
オッズ賭けの 9 1.50倍
オッズ賭けの10 2.00倍

なおオッズ賭の分に関しては、数学的にカジノ側にとってはなんのアドバンテージもないため、各カジノではその上限を決めている。その上限の表示方法は 「もともとの賭金の何倍まで」 という形で表現され、現場に 「 DOUBLE ODDS 」 と表示されていれば元の賭金の 2倍まで、「 TRIPLE ODDS 」 となっていれば 3倍まで賭け増しができるということである。上の例では 「5倍オッズ」 が認められているカジノで、その上限一杯の 5倍を賭けた場面である。
一般にラスベガスのカジノでは 「 DOUBLE ODDS 」 を採用しているところが一番多く、「 TRIPLE ODDS 」 はどちらかといえば少数派だ。中には 「 10×ODDS 」 (10倍までオッズ賭け可能) という看板を掲げているカジノもある (写真右)。
なお近年は、「3-4-5 倍オッズ」 を採用するカジノも急激に増えてきている。これは、「ポイントが 4 または 10 の時は 3倍まで、ポイントが 5 または 9 の時は 4 倍まで、ポイントが 6 または 8 の時は 5倍まで」 という上限の決め方だ。これは客にとってもカジノ側にとっても特に数学的な有利性などはまったく関係ないが、ポイントがなんであろうとカジノ側が失う最大の金額を一定に保てるという効果がある。

繰り返しになるが、この 「オッズ賭け」 と呼ばれる追加分の賭金に対しては、確率論的にカジノ側にとってはなんの有利性もないわけで、逆に解釈すれば客にとって最も有利な賭けということができる。したがって、クラップスというゲームをやるからにはこのオッズ賭けの権利をフルに利用しない手はない。もちろん客にとって 「有利」 といってもその勝率が正確に 「 50対50 」 になったというだけのことであって、客側が圧倒的に有利になったというわけではない。
 しかし、他の賭け方で勝負をするよりは (他の賭け方はたとえば 「 45 対 55 」 など客側に不利な勝負が少なくない) 圧倒的に有利であることに変わりはなく、クラップスをやるからには最大限の予算をこのオッズ賭けに投じないことは愚かな選択といえる。

さて、このオッズ賭の具体的な 「参加方法」 だが、オッズ賭けとして追加して出される賭金はもともとの賭金とは区別されなければならないため (勝ち負けの結果は同じだが、配当倍率が違うので)、チップをもともとの賭金の上にそのまま重ねて置いてはいけない。
パスラインの賭金に対してオッズ賭けする場合、追加分を元の賭け金のすぐ横に置く (このページの一番上の写真)。
 そしてカムに対してオッズ賭をする場合は、スペース的に外側に置くことができないため、元の賭金の上に追加分をずらして重ねるように置く。(写真。カムの場合は最初に賭けたチップは次に振られたサイコロによって決定する "その人のポイント" の位置に移動されるので、オッズ賭けの分はその上にずらして置く。この写真は、カムに賭けられた $5 が "その人のポイント 8" に移動され、そこに 5倍の $25 をオッズ賭けした例)

クラップスのマナー

第 1投目であるカムアウトロール以降のロールにおいて 「7」 の目が出てしまうことを 「 SEVEN OUT 」 という (第 1投目で 「7」 が出ても 「 SEVEN OUT 」 とはいわない)。

もちろん 「 SEVEN OUT 」 になれば、その回 (この 「回」 のことを正式には 「シリーズ」 という) は終了となる。

この 「シリーズの終了」 が必ずしもすべての賭け方に対して 「望まれない結果」 とは限らないが、これまでに述べてきた賭け方のバリエーションをひと通り復習してもらえればわかる通り、ほとんど大多数の賭け方において 「7」 という目は期待されない 「悪魔の目」 となっている。例外はドントパス、ドントカム、それにエニーセブンだけだ。

以上のことを簡単にまとめて言うならば、クラップスというゲームにおいては、そこに参加している大多数のプレーヤーはカムアウトロール以降において 「7」 が出ることを期待していないということである。
事実、実際のカジノにおいてドントパス、ドントカム、エニーセブンなどに賭けている者はほとんど見かけない (賭けている者がいたとすれば、それは何も知らない全くのビギナーか、あまのじゃく的な人物だ)。
したがって、もしその場にそのような 「逆の賭け方」(ドントパス、ドントカム、エニーセブンに賭けること) をする者がいた場合、せっかく盛り上がっている雰囲気が一気にシラけてしまうことになりかねない。特にシューターになった者 (サイコロを投げる役に選ばれたプレーヤー) がドントパスなどに賭けていた場合、多くのプレーヤーは賭けることを一時中断してしまうか、あるいはそのテーブルを去って隣のテーブルに移ってしまう。とにかくマナーとしてドントパス、ドントカム、エニーセブンには賭けない方がよいだろう。エニーセブンはマナー以前の問題として賭けたら損である。

クラップスをやったことがない者は、「どこに賭けようが自分の勝手ではないか」 と思いがちだ。たしかにそれは正論かもしれない。しかしそれはルーレットやブラックジャックには言えてもクラップスにおいては必ずしもそうとは言えない。なぜなら、ルーレットやブラックジャックにおいては玉を投げ込む者もトランプを配る者も、それらはすべてディーラーであって客ではない。つまり客同士は互いになんら利害関係はない。
 一方、クラップスにおけるシューターはディーラーではなく客の代表である。第 2投目以降で 「7」 を出そうと念じながら投げているシューターのシリーズにわざわざ参加しようと思う者がいるだろうか。仮にそのようなあまのじゃくがシューター役ではなかったとしても、みんなが一丸となって 「7」 が出ないことを念じている場所に、ひとりでも 「7」 が出ることを念じているようなプレーヤーが同席していたらやはり気分はよくないというものだ。

  「そこにいる仲間全員でカジノ側と戦い、勝ちも負けもみんなで分かち合う」、それこそがクラップスの楽しみだ。とにかく 「逆の賭け方」 をしないことはマナーと考えておいた方がよいだろう。
 もしどうしてもドントパスやドントカムに賭けたいというのであれば (エニーセブンはマナー以前の問題として確率論的に不利なので絶対に賭けるべきではない)、誰もやっていないテーブルに行ってやるとよい。つまり自分ひとりだけでプレーすることになるが (もちろんシューター役も自分でやるしかない)、それはそれでまったく問題はないし、決して珍しいことでもない。事実、ひとりでやっているテーブルを覗いてみるとドントパスに賭けている場合が少なくない。たしかにドントパスはパスラインよりもほんのわずかな差ではあるが、期待値が高いのでそれも悪くはないだろう。しかしその差は 10000分の 5、つまり $100 賭けてたったの 5セントの期待値差だ。どうせならこの際きっぱりとドントパスやドントカムの存在を忘れてしまってもよいだろう。