ポーカーには必勝法が存在しない

防弾チョッキか防毒マスクか?

自分が採るべき戦略とは、相手の戦略がある程度わかっているからこそ立てられるのであって、相手の正体がわからなければ戦略の立てようがない。

つまり敵がピストルを持っているとわかっていれば防弾チョッキを着ていくことができるし、サリンを持っているとわかっていれば防毒マスクをかぶっていくこともできる。

このように戦争などの場合は敵の武器がある程度特定できれば、持っていくべき装備は自動的に決まってくる。ところが不特定多数の敵が入れ替わり立ち替わり現れるポーカーの場合それはまったく不可能である。つまり戦場に行ってから現場で臨機応変に応戦するしかない。

具体的にいうならば、ワンペアぐらいの手で強そうな顔をして突っ張ってくる者もいれば、ストレートフラッシュなどができると急に泣き出しそうな弱気の顔をしてくるヤツもいる。また彼らのそれらのトリックは当然のことながら常に一定しているわけではなく、意表を突いたタイミングで急変することもある。

そういう状況下で臨機応変に戦略を立てなければならないのがポーカーであり、そのような不特定多数の敵のクセをすべて想定しながら、ひとつのセオリーとして必勝法を体系的にまとめ上げることはほとんど不可能ということになる。

 また、そのような 「敵との駆け引き」 以外の 「手作り」 そのものにおいても、ポーカーの場合は 「常に強い手をめざす」 ということだけが戦略上の目的になるとは限らないため、戦略を体系化するのが極めて困難ということになる。

「手」作りにおいても普遍的な戦略はない

便宜上わかりやすくするために、日本で親しまれている5カードポーカー (アメリカでいうビデオポーカーに極めて近いルール) を例にあげて説明する。

たとえば自分の手に写真のようなツーペアの手が来ていたとする。

この場合、ただ単により強い手を目指すだけなら8を切って、フルハウスを狙うべきであろう。しかし確率的には2,2,8を切って King のスリーカード (英語では Three of a Kind) を狙った方がその目的を達成できる可能性ははるかに高い。ところが、スリーカード狙いは失敗すると当初のツーペアも失うことになる。

どっちの作戦を採るべきかは、対戦相手の性格のみならず、参加している人数によっても大きく違ってくる。少人数であればツーペアでも十分に勝てるのでフルハウス狙いで遊んでみるのもよいだろう、人数が増えてくるとツーペアでは、不十分なのでスリーカード狙いにするしかないという場合もある。

また、もっと人数が増えてくるとスリーカードでも危ないという場合もあり、やはりフルハウス狙いでいくしかないということもあるだろう。

さらに、何も交換しないでダンマリを決め込み、あたかもストレートやフラッシュが出来上がっているかのような顔をしてツーペアのままで勝負するという方法もあるかもしれない。

もっともこれはラスベガスのカジノでは、ほとんど行われていない5カードポーカーの例だが、7-Card Stud や Texas Hold*em では、相手に見られていないカードが2枚しかないがゆえに、さらにちがった独特の駆け引きが必要になってくる。 このように同じ手でもさまざまな戦略があり、これらのどれがベストなのかは現場の状況を判断しながら決めるしかない。そしてそれは 「相手の性格やクセ」 という極めて抽象的なものが微妙にからんでくるため益々普遍的な戦略やセオリーを体系化させることはむずかしくなってくる。

賭金を出すタイミングがすべて

ラスベガスで主流をなす 7-Card Stud や Texas Hold*em では、「不必要なカードを切って新たなカードをもらう」 という動作がない分だけ、「賭金を出すタイミング」 が非常に重要な意味を持ってくる (ここでいうタイミングとは、ゲームから降りるか降りないか、降りない場合の賭金の積み増し額、その増加のテンポなどのことである) 。

もちろん 「敵の顔から敵の手を読む」 という作業も重要だが、7-Card Stud や Texas Hold*em の場合、見えていないカードが2枚しかなく (つまりほとんどのカードは見えてしまっている)、その重要性は相対的に低い。やはり 「賭金を出すタイミング」 の方がはるかに重要であると同時に、ゲーム結果に与える影響も大きく、それですべてが決まってしまうと言っても過言ではない。

またゲームの進行やルールの上からも、「賭金を出すタイミング」 以外に自分で決定すべきことは何もないというのが 7-Card Stud や Texas Hold'em の実態である。 こうなってくると、もはや完全な 「心理戦争」 であり、その必勝法は数学的なセオリーよりも、むしろ心理学の世界に解答を求めなければならないということになる。 服装やヘアースタイルやタバコの吸い方までが勝負に影響してくるとは断言できないが、少なくとも自分の予算、もっと具体的にいうならば敵の前に披露している 「現金の山」 の量などは明らかに敵の心理に影響を与える。もうそこは数学もセオリーもまったく存在しない世界である。

したがってポーカーの場合、各自が自分の経験則に基づいた独自の戦法を引っ提げてゲームに臨んでいるのが現状で、普遍的な必勝法などどこにも存在しない。その証拠にブラックジャックの場合は 「ブラックジャック攻略本」 のたぐいが数え切れないほど出版されているが (もちろんそれらの本の中身はすべて同じ結論に導かれている)、ポーカーの攻略本はありそうでそう多くはない。またあったとしてもその内容はほとんど心理的な作戦が抽象的に説明されているだけで、内容も本ごとにバラバラで、同じ結論に導かれているわけではない。